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その景色をさがして

中山聖子「その景色をさがして」(PHP研究所)を読んだ。
sonokesikiwo
小学校2年の時、両親か離婚し、トーコはママと二人で暮らしていた。
6年生のおわりにママが入院してからは、祖父母の家に住んでいる。
物語は、ママがなくなって半年後からはじまる。
トーコは、もうすぐ中学二年。最も多感な時期を迎えている。
「トーコに見せたい景色がある」とママがいったのは
病院のベッドの上だった。
そこがどこなのかトーコは聞かなかった。
治ったら、いっしょに旅行する約束だったから。
ママが亡くなってから、そこはどこなのか。
何を見せたかったのかと考えるようになる。

家族の死というのは
なかなか乗り越えられないものだ。
この物語では、トーコだけでなく
祖父も祖母も叔母も、みんな、悲しみを胸の中に抱えている。
一見癒えたように見えても
ほんの少しのはずみで、キズが開き、血がにじむ。

一番頼りたかったときに、パパに頼れなかったことも
トーコのキズになっている。
パパはもう、別の人と再婚している。

離婚したということは、パパとママの結婚は失敗だった。
ない方がいい出来事だった。
だったら、そんな中で生まれてきた自分は、なんなのだろう。
生まれてこない方がよかったんじゃないのか。
友だちのことや、パパのことで、悩むあまり
トーコは自分の存在すら否定し始める。
自分の足もとがぐらぐらと頼りなく揺れていく感じなのだろう。

死んだママのことを思いだし、
どうして、あんなふうにいってしまったんだろう、とか
なんでこうしてあげられなかったんだろうと
後悔ばかりのトーコに、胸が痛んだ。
そうなんだよ。
後悔するものなんだよ。
もっとこうしてあげればよかったのに。
わたしは、なにもわかっていなかったって。
中学2年の女の子には荷が重すぎる。

ママの見せたかった景色、
そこには、娘へのメッセージが込められていた。
それをしっかりと受け取ったシーンでは、涙があふれてきた。

美しい表紙絵が、このシーンをよく表していた。

いいお話だった。
読み始めたのが夜だったから
ちょっとだけと思ったのにやめられなかった。

それにしても、美しい描写がふんだんに出てくるお話だった。
冒頭の庭の描写から惹きつけられた。
「木々の枝からは、赤んぼうの指先みたいな新芽が顔を出している。かわいい花を咲かせる水仙やムスカリには、微炭酸の泡に似た光が降り注いでいた」
こんな美しい文章、わたしには逆立ちしても書けない。
こうなると、表現力とか文章力とかじゃなくて人間性?

思わぬところで、自分の人間性をうたがうハメになった。
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プロフィール

yamamoto etsuko

Author:yamamoto etsuko
「神隠しの教室」(童心社)で、第55回野間児童文芸賞受賞。「先生、しゅくだいわすれました」「がっこうかっぱのイケノオイ」「ポケネコにゃんころりん」シリーズ、「テディベア探偵」シリーズ、「夜間中学へようこそ」などの著書を持つ児童文学作家。愛知県半田市在住 児童文学同人誌「ももたろう」同人、日本児童文学者協会会員 JBBY会員
〔家族〕 夫 息子その1(人間) 息子その2(人間)、息子その3ルウ(トイプードル) 息子その4モカ(トイプードル)

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